検事 久賀丞已

短いノックの音に我に返ったが顔を上げたタイミングで、ドアが開いた。

「やっぱりここでしたか。もう十一時ですよ。部長が『篠塚がつかまらない』と私に電話して来て」

雅季は、向かい合わせた机の、二つの小島のある執務室に入って来た人物に視線を移す。消灯した室内で長時間パソコンの画面を見ていたせいで、その輪郭はぼやけていた。

それでも、その声を聞けば検事の久賀だとわかる。

しかし、普段は後ろで一つにまとめている髪が解かれ、スーツの肩に落ちている姿を初めて目にした雅季は、妙に色気を漂わせているその男を久賀と認識するに数秒要した。

「あ、携帯の電源落ちてました」

椅子に掛けたスーツのポケットから出した携帯に、充電コードを挿す。それにしても、どうして谷村は自分が久賀と一緒にいると思ったのだろう。ましてやこの時間に。

「急ぎのようでしたか?」

「いや、明日で間に合うと」

雅季はそれを聞いて、上げかけた受話器を元に戻した。そのままラップトップを閉じ、デスクの引き出しにしまって鍵をかけたとき、長い溜め息が降って来た。

目を上げると、机の向こうの久賀は片手に書類を、片手はスラックスのポケットに突っ込んだまま、無表情で言った。

「犯人の情報を集めてばかりで、私がパートナーになってからそこそこ経つのに、誕生日さえ聞こうとしない」

「今日誕生日だったんですか?」

「違いますよ」

「そんなこと言いにこちらへ? 私はもう帰りますけど」

誰もいない薄暗い部屋で久賀と二人きりだと認識すると、なぜか落ち着かない。

「ようは、嫉妬してしまうという話です」

エリート検事の冗談にしては、お粗末だ。雅季は露骨に眉をひそめた。それを無視して、彼は手にしていた書類を鼻の先に差し出した。

「名取香織の供述調書を再読したら、公判前に確認しておきたいことが出て来まして」

「それは検事のですよ」

雅季は、受け取った調書をぱらぱらと繰りながら、セミロングの髪を耳にかけた。

「もう全てハードに入っています」

人差し指でこめかみの辺りを軽く小突く久賀の唇の端がくっと上がる。

「で、確認って何ですか?」

雅季の追う、強盗、及び強制わいせつ事件の担当となった、。

二週間前、雅季が部長の谷村に呼び出され、引き合わされたのが、ダークスーツに身を包んで髪を後ろに束ねた、嫌みなほど端麗な面立ちの男だった。そして、若い。

「君が今担当している例の捜査を担当することになった、久賀氶已検事だ」

そう谷村に紹介されると、久賀は口元に微かに笑みを浮かべながら、雅季に手を差し伸べた。

「久賀です。よろしく」

「刑事部捜査第一課、篠塚雅季です」

簡潔過ぎる挨拶と、初見の“ロン毛検事”に戸惑いながら雅季は久賀を仰ぐようにして、手を握り返した。

「あなたは小学生の時、H町三丁目のパークハイツ二○五号室に住んでいた。両親と妹の四人家族」

久賀の声が耳に入ると、雅季は目を見開いた。確認するのは被害者で、自分のことではないはずだ。

「な、なにを急に……」

「そんなに驚くことはないですよ。私の家族はその一つ上の階に住んでいたというだけのことです。私は私立の小学校に通っていましたから、あなたの家族とはほとんど接点がありませんでしたけど」

雅季が二の句を継げないのを見越したように、久賀は続ける。

「あなたの噂はこの事件担当になってから聞いています。美しい人はそういう点では損ですね。すぐに噂の餌食になる。男性に厳しい、男嫌いとか。その男性を寄せ付けないきつい性格のせいで、女性が好きなのではないかとか。陰では言いたい放題だ。全くバカバカしい。そうでないのは、私が一番よく知っています。あのとき、一部始終を見ていたのですから」

雅季は息を呑む。手のひらにじわりと汗が滲む。

久賀はデスクの端に指先を滑らせながら回ってくると、距離を詰めた。雅季をじっと見据えたままネクタイを緩め、外す。それが白いワイシャツをしゅるりと擦る音が、部屋にやけに大きく響いた。

まさか自分の過去を知る男にここで出会うとは。

あのおぞましい記憶を拭い去るために選んだ場所。自分のテリトリーで、建物の入り口には常に警官がいて、自宅よりも安全だと思っていた場所で。

「調書で私がおかしいと思う点を、篠塚さんはどう解釈されているのか教えてもらいたいんです。もしかしたら被害者の狂言という可能性もありそうです」

「それなら座ってください」

雅季は、すでに帰宅した同僚の席を目で指した。

「それには及びません。ちょっと立っていただけますか」

リムレスの眼鏡の奥の眼差しは穏やかでも、その有無を言わさぬ声音に、雅季は狼狽した。

「どうしてその必要があるんですか?」

「調書通りに検証したいんですよ。何か不都合があるんですか? まさか、私が怖いとか」

「そ、そんなわけない……」

そう言った手前、立たないわけにはいけなかった。自分の意思に反して椅子のキャスターはスムーズに動く。

「背を向けてください。調書通り、手を後ろで縛ります」

「こんなこと、意味があるとは思えませんが」

重ねた手首に巻かれたのが、その感触で彼のネクタイだとわかったとたん、雅季の動悸が速まる。久賀はそれには答えずに、結び終えるとその背を壁に向けて立たせた。

「ちょっと待ってください。調書では拘束された被害者はキッチンの椅子に座らされ、包丁で脅されて現金とカードを取られた挙げ句、暗証番号を言わされたと……」

「私がはっきりさせたいのはその調書じゃありませんよ。あなたの、十九年前のあなたが九歳の時の供述調書です。あなたは警察に全てを話していないでしょう。強要されたわいせつ行為がどこまでだったのか。全て話すのは小学四年生にはあまりにも酷なことですからね」

「どうして……」

雅季の薄く開いた唇は震えるばかりで言葉は続かない。

「うちのキッチンの窓はあのコンクリートの壁に挟まれた袋小路の真上でしたから。マンションの隣が酒屋で入口脇に重ねられたケースで本通りからは死角でしたけど、三階からは丸見えでしたよ、あなたが男にレイプされているところ。ちょうど斜め上から一部始終をね」

全身の血がさあっと音を立てて引いていくのがわかった。顔を寄せてきた久賀の瞳が妖しく光る。

「私には、全てを話してください。そうすれば、長い間、あなたを苦しめているものから解放されると思いますよ」

「い……今更何を……? 見てたなら、どうしてあのとき助けてくれなかったの?」

狼狽し、仕事相手に対する口調でなくなっている事に雅季は気がつかない。

久賀は、その質問が不当だとでも言うように、口元を歪めた。

「当時小学三年生の男子に何が出来たって言うんです? ……いや、違うな」

彼は一瞬足元に視線を落とした。

「動けなかったんだ。そうだ。あの光景に目が釘付けだったんだ」

再び上げたその目には、ずっと解けなかったナゾナゾが解けた、そんな朗らかな表情が浮かんでいた。雅季は力なく頭を振った。

「さあ、思い出すのを手伝ってあげますから。あのとき、最初は確かあなたは、ガムテープで口を塞がれていた。でも、塞いでしまったら話せなくなりますから、ここでは、やめておきます」

彼の指がライトブルーのブラウスのボタンを外し始めると、雅季は「止めて」と目で訴えた。口の中が乾いて、声は出なかった。

――あの時のように。

久賀の手は止まらず、グレーのスーツパンツからたぐり出したそれを開いた。

「男はサングラスをかけていましたね。短髪で、体格はがっしりしていた。さあ、彼はこうしてあなたを後手に縛ってまず何をしたんです?」

「やだ」

やっとそれだけ言い、うつむいた雅季の耳に久賀は囁く。

「すみません。まだ心に深い傷を負っているあなたに話せと言うのは酷でしたね。では、当時のことを思い出して、私の質問にできる限り正確に答えてください」

久賀は、雅季の引き結んだ唇に自分の唇をそっと押し付けた。

「宣誓の代わりです」

それ以上キスはされない代わりに、彼の唇は首筋を何度も吸い、滑らかに喉を上下した。

雅季の肌に嫌悪で鳥肌がたつ。

小学校五年の夏休み前、家の近くで若い男にナイフを見せられた。家は目の前だったのに、通りには人気が無く、あっさり路地に連れ込まれた。

男は壁と自分の身体で雅季の身体を押さえ付けながらガムテープで口を塞ぎ、防犯ベルを取り上げた。

「私は家に帰ると、あまりにも暑かったので、クーラーが効くまで窓を開けたんです。そのときに、眼下に動くものが見えて。あなたの前に膝立ちになった男が、あなたのブラウスを開いて、下着をたくし上げているところでした」

そう言って、久賀はブラウスの前をはだけ、ブラジャーを少しずつ露出させた。

「縁にフリルがある。可愛いですね」

クールビューティーで通っている雅季の下着は意外にも淡いアプリコット色だった。美しい刺繍とレースのそれが、盛り上がった乳房の美しい曲線を彩っている。

久賀は親指をブラのカップの下に入れ、上にまくってずらした。ふるり、と恥ずかしげに乳房はまろび出た。

「やっ……」

雅季は肩を揺らして逃げようとした。

だが、久賀は片手で肩を壁に押さえ付けながら、ブラを完全にずらし上げて、乳房を目の前に露出させた。

「あの時は、もっとささやかな膨らみだったはずですけど……」

久賀は、怯えて、まだ小さく縮こまっている乳首にふっと息を掛けた。

「男は右の乳房を握って、もう一方の乳房の先端を指先でくすぐっていた……」

彼は低い声で言いながらその通りに手を動かすと、雅季は諦めたように固く瞼を閉じた。

ころころと指に転がされる乳首がだんだん芯を持っていく。そっと、乳肌を撫でられた。

「ん……あっ」

嗚咽とも喘ぎともとれる声が喉から漏れた。

乳首に軽く爪が立てられると、そのまま触れるか触れないかの微妙な力で、手は乳房を上ったり下りたりし始める。

「あ、んっ、あぁ……」

抵抗の声を上げているはずが、それはやけに艶めいて聞こえた。

雅季の下腹がひく、ひくんと震える。

喘ぎながら、雅季は呟く。

「やだ……やめて……」

雅季の懇願を無視した久賀は、白い乳房を凝視しながら、指をさわさわと乳首の周辺に這わせ始めた。

その虫の這うような微かな刺激に、雅季の吐息まじりの声はうわずり、呼吸が乱れていく。

「声を出してください。あなたの感じている可愛い声を。あの時は口が塞がれていて、出したくても声が出せなかった。苦しかったでしょう?」

ちらりと横に流した久賀の目線と自分のが合うと、雅季はさっと逸らした。頬が、熱い。

ちがう……。あの時は、ただ気持が悪いだけで、きっと口を塞がれていなくても声なんて出なかった。感じてなんかいなかった。

今だって同じように触られているのに、嫌なはずなのに、なぜか身体の奥から自然と滲み出るように、声が溢れてしまう。

久賀に、本当はいやらしい女なんだと軽蔑されると思うと心が折れそうだ。でもこの肉体の自然な反応を抑える術を自分は知らない。

肌を撫でる手を無視しようとすればするほど、却ってその動きを意識してしまう。

まだ触れられていない場所が、期待に待ちわびて火照り始める。

指先は依然、柔らかな丘の曲線を這い回り、そうかと思うと、ゆるくくぼませた温かな掌で乳房全体が押し包まれる。淫靡な戦慄と溶けるような快感がさざ波のようにあとからあとから打ち寄せ、全身に広がっていく。

「はぅ……んっ、あんっ……」

手はそのままやんわりと柔肉を圧迫し、円を描く。弾力のある乳房は手の力に小さく反発しながらも揉まれ続ける。

久賀は手指を動かしつつ、可憐な隆起に唇を近づけていった。舌を差し出し、乳房をねっとりと下方から舐め上げて行く。甘い汗が唾液と混じる。

官能的に震える隆起に誘われるように何度となく舌を這わせ、双乳とも唾液まみれにしていく。ぷっくりと飛び出た小さな突起を口に含んだ。舌先で転がし、軽く歯を立てた。

その瞬間、雅季の身体が跳ねた。

「んあっ!」

甘い声が、一層高く部屋に響く。

尖り切った乳頭が、口内で熱い舌にねっとりと転がされている。その動きはどこまでも優しい。

「あなたは無垢なはずなのに、ずいぶん敏感ですね」

久賀のその言葉だけで、雅季の腰はびくんと反応する。長い時間をかけて、久賀は乳首を舐めてくれている。

あれ以来、ずっと男というものを避けていた。異性に触れられるのも初めてだった。だから久賀がこんなに時間をかけて愛撫するのが不思議だった。乱暴でない事が。ほっとすると同時に幸福感がじわじわと湧き上がる。彼の手に唇に、舌に翻弄されて更なる快感が生まれて来る。

「久賀さん……、私、汚いです……汚れています……」

自分の身体は、あの時から汚れている。もう何年も経つのに、風呂で身体を何度洗っても、それは今日まで拭いきれていないのだ。

「汚くなんてありませんよ。とても、綺麗だ」

ちゅるっと音をさせて乳首を吸う久賀が、右手で薄い腹を撫でる。それからウェストのくびれを撫で、スーツパンツのスナップを外してファスナーを下ろした。

「そこは……」

せつな、雅季は屈み込むようにして、脚を閉じようとした。

「あのとき、男はデニムのスカートを左手でまくった……今日は残念ながらスカートじゃないので、脱がせますよ」

「えっ……」

戸惑う雅季の顎を指がすくった。唇が重なり、舌が割り込んで来た。困惑する思考を掻き混ぜるように舌は雅季に絡み付き、深く弄る。

「ぅん……んっ……」

濡れた舌にぬめぬめと粘膜が撫でられる感触に抵抗の意思が削がれて行く。するっとストッキングの上をパンツが滑り降りて行った。

息が止まるくらい強く、舌を巻き付かせて貪るようなキスを続けながらも、久賀の手は冷静に、丁寧にストッキングを剥いでいく。

「この時点でもう、抵抗は出来なかったでしょう? あの時と同じようにしてください。怯えて、言いなりになっていたはずだ」

雅季を覗き込んだ瞳は、苦しげに揺れていた。項垂れた雅季の前に久賀は屈み、パンプスを脱がせてストッキングを抜く。

「綺麗な脚だ。もとい、小学生のあなたの脚は棒のようでしたけど」

滑らかな膝から触って、上へ撫でていった。たおやかに肉付いている内腿を指先でそろりそろりとしばらく撫で回す。雅季は怖気が走るのか、脚をぴたりと閉じてしまった。

久賀は、やがてその閉じた脚の間に手をすっと差し入れた。そして柔らかい内腿の間に手を滑り込ませていく。すべすべした肌に挟まれた手は、その感触を堪能するかのように上下した。

雅季は時折身体を震わせ、必死に耐えている様子だった。ブラと揃いのショーツの上から左手の指で恥丘をそっと押す。

くっ、と頭上で押し殺した声がした。

「下着が少し湿って、縦にすじが深く入って割れている」

「いやっ」

そのまま人差し指をそっと垂直に突き入れた。指の腹に雅季の柔軟な熱を感じる。

「だめぇ……」

雅季は蚊の鳴くような声を出し、力なく首を振って哀願してきたが、それは男の嗜虐心を煽るだけで、抵抗として全く意味が無いことを、彼女はあの時も、今もまだわかっていない。

久賀はショーツに手をかけ、さっと足首まで下ろした。

「下着が取られたあと……脚は膝から左右に開かれていった」

脚を開かせると、その付け根の露になった割れ目を両手の親指で割って暴いた。

「あう……い、いやあっ」

閉じようとする内腿を付け根付近で指先に力を入れてぐっと押し広げると、手の下の抵抗はすぐに止んだ。

「もっと脚を広げて。力を抜いて。私が全て拭い去ってあげます」

――拭い去る……。

魔法に掛かったように、雅季は素直に力を抜いた。

恥部を覆う陰毛は薄く、一本一本が細く頼りなかった。そこだけは、まだ当時のままのようだ。

窓から差し込む月光を頼りに、蜜で光る襞の狭間に小さな突起を探し、唇をそっと近づけた。襞に息を感じたらしい、雅季の下腹がピクリと動く。

舌に当たる感触は柔らかい。唇でそっと挟んで、舌先で撫でた。

「ああっ! ……っん、ぁん……」

雅季はもじもじし、呻き始めた。甘酸っぱい匂いがほのかにして、舌に当たっている器官が次第にしこってくるのがわかる。久賀は続けて舐めた。あくまで羽でくすぐるように、そっと舌をそよがせる。

「やっぱり……だめ……、んっ、だめ……、だめっ……」

初めて味わう快感に恐怖を覚えた雅季は、同じ言葉を繰り返す。それでも、淫靡な刺激を送り込まれ続けているクリトリスは小さいながらもしっかりと屹立し、舌先を跳ね除けるくらいになっていた。

「大丈夫。あなたのここは感じていますよ。ほら……」

――ああ、わかる……。久賀の舌の上で、小さな芽がコリコリと、恥ずかしいくらい硬く膨れ上がっている。

久賀は派手な音を立ててそれを吸い上げ、振動を送り込んだ。

「ひあっ」

腰が跳ねる。久賀はひたすら、それを舐めしゃぶった。小さな膣口から蜜がじわじわと溢れてくる。甘酸っぱい匂いのそれは、とろりと流れて襞に滲む。左の指先でその蜜をすくい、可憐な花びらを撫で、それから膣口を撫でた。

「あ……」

雅季が驚きの声を上げた。久賀は陰核をしゃぶりながら、小さく狭い門に指先をめり込ませる。

「あ、ああっ、怖いっ」

引こうとする細い腰を片手で押さえ付け、じわりと指先に力を入れた。

徐々に指先が入ってゆく。膣全体が侵入を拒否しているような抵抗感が指に伝わって来る。

久賀は口の中で屹立しているものを優しく舐めた。小さいながらも舌先にしっかり反応を伝えて来るのが愛おしかった。

刺激を与えているうちに、感触の違うつるりとした部分が出て来た。そこに強い刺激を与えないよう、慎重に唇で撫でる。

「ああっ」

雅季がひときわ大きな声を上げ、腰を震わせた。久賀は動こうとする腰をさらにしっかり押さえ、唇で挟んでやわやわと刺激し続ける。

「あーっ、変っ! 変なの……!」

舌に当たる尖りがぴくぴくっと痙攣した。入れた人差し指がきつく食い締められ、奥に引きずり込まれる。

その瞬間だけ動きを止め、痙攣が止んだ頃再び舐め始める。雅季はすぐに高みに突き上げられてしまったようだ。膝が震えている。支えていないと倒れてしまいそうだった。

「あーっ、また、また変っ! また変に!」

次の波に襲われたのか指がさらにぎゅっと締められ、強く奥に引っ張られた。肉と指の間から蜜がとろとろと流れて来る。口の中で軽く吸ったクリトリスが戦慄いた。

まだ男を知らない身体だというのに、膣だけは必死で挿入を誘っているのだ。久賀は、中に入りたいという烈情を押さえ込むのもこれが限界だった。

「入れていいですか? もう、我慢出来ません……」

雅季はぎゅっと目をつぶったままこくこくと頷いた。

拘束を解いた手を引き、デスクの上に雅季を仰向けに横たえる。

彼はスーツのジャケットを脱いで椅子に掛けると、スラックスの前を開いて下着を下ろした。

解放された勃起がびくんっと跳ね上がった。久賀は、軽く開かせた脚の間に身体を割り込ませると、反り返った屹立を握り、花弁の間に勃起の先端を宛てがう。

雅季は、きりりと眉根をよせた。

「私が、初めてですよね。……いきますよ」

久賀の声が気のせいか震えて聞こえた。雅季は無意識に呼吸を止めていた。

あのとき、股間をいじられ、舐められた後に男の脈打つ肉塊を咥えさせられ、すぐに噴射した精液で口内とスカートを汚された。

だが、幸か不幸か、まだ衰えの見せないおぞましい肉棒の挿入は、ちょうど配達準備をする酒屋の業者の声と、店先でビールケースを重ねる音に阻まれたのだった。怖じ気づいたのか、男は酒屋のバンが走り去る音が遠ざかると、逃げて行った。

久賀は、本当に一部始終を見ていたのだ。

刑事と親以外、誰にも言えなかった過去の闇の片鱗を。彼には隠す事が出来ない。隠す必要は無い。

それに気づくと、久賀に抱かれる事が何かの儀式のように思えなくもなかった。

熱い陽根が、ぬめる左右の花弁を巻き込み、亀頭が序々に割れ目に沈んでいく感触が伝わってきた。

先が少し埋まると、久賀は己から手を離して机に着いた。そして慎重に体重をじわりと掛けてゆく。無理だとわかると腰を引き、ほんの少し角度を変えて再びじわりと圧迫する。その繰り返しだった。

「緊張しないで。力を抜いてください」

恐怖のためか、雅季の身体はだんだんずり上がってしまう。久賀は彼女の上半身を抱きしめ、固定した。シャツ越しに、潰された柔らかな乳房を感じる。

両脚をもっと大胆に割り開き、下からえぐるように突き進んで行く。

「あぅっ」

雅季が驚きの悲鳴を上げた。ほんの少し、めり込んだ。亀頭が柔肉の中に入ったのだ。ただ、その先に抵抗があった。

「ちょっと痛みますが、最初だけだから我慢してください」

久賀は慎重に腰を押し付ける。弾力のある何かが亀頭を押し返そうとするのを、さらに力を入れた。

「いた、痛いっ……」

雅季の顔が苦痛に歪み、目の端から涙がこぼれ落ちる。久賀はそれを唇ですすりながら、さらに力を入れた。

「ひっ……」

内部で突然、ぴりっと何かが避けた感触がした。勢いで亀頭が奥に進む。そこで久賀はしばらくじっと息を潜めた。初めて男を迎え入れる膣は、かなりきつかった。まだ硬く、痛いくらいに締め付けて来る。

じっと動かなくても久賀の屹立は衰えなかった。それどころか、きつい締め付けに反発するかのように、陽根に血がますます送り込まれる。

「動きますよ?」

訊くと、雅季は痛みに耐えながらも頷いている。額に汗が浮いていた。

久賀が細い身体を抱きしめたまま、腰をそろそろ動かし始めると膣がびっくりしたように蠕動し、抜き差しもままならない。

それでも彼は内部を優しくほぐすように、少しずつ突いてゆく。

「痛みます?」

囁くと、雅季は初めて目を開けた。

「もうそんなに……」

「少し動きますね」

ことわって久賀は先ほどよりもストロークを長くした。途端に亀頭と肉幹が無数の襞を感じ取った。慎重に進めていた時にはわからなかったのだ。

「ああ、すごく……いい」

久賀から溜息が漏れた。

未開の地だというのに、膣は男を喜ばせるためにたっぷりと湿り気を含んでいた。

亀頭のエラに襞がねっとりと絡んで来る。

膣全体が律動にあわせてリズミカルに締め付けて来る。しとどに蜜が溢れ、ぬちゃぬちゃと淫猥な音が立ち始めた。

「すごい、きつい……」

「あ……、あんっ、なんだか、また、変……」

雅季は何かわからないが身体の奥から突き上げてくるものを感じ取っていた。その疼きが何かはわからないが、とても切なく感じる。

性器と性器が擦れ合う音はますます高まる。ペニスの動きも滑らかになった。それを受け入れる雅季も、緊張が解けて徐々に柔らかくなって来ている。

二人のすれ違っていた呼吸が次第に合い始める。

「大丈夫ですか? 痛かったら、言ってください」

「痛くない。ズンズンって……響いて、身体が、熱い」

そう言った雅季の中がさらにきゅうっと締まる。

愛おしい。すでに射精したくてたまらなかった。

久賀は雅季の中で射精しようと決めていた。あの経験から、彼女がピルを飲んでいるのは確実だった。それでも、雅季に了解させたかった。

「イきますよ? 全部、中に出しますからね……」

一瞬、雅季が瞠目するが、すぐに首を小さく縦に振った。

「ん……きて」

戸惑いながらも久賀の背中に回された手が、シャツをぎゅっと握る。そんな些細な仕草に、久賀の心が震える。雅季への狂おしい思いのままに、激しく腰を振り立てた。

きつかった膣はだいぶ柔軟になっていた。痛みも失せたのか、雅季は久賀の下で悩ましげに喘ぎ、必死に快楽を追っている。

「……出る、でるっ……!」

久賀はひときわ激しく腰を打ち付けた後、子宮に向かって熱い精液をほとばしらせた。

乱れた息が整う頃、雅季からずるりと久賀が抜かれると、尻の方へとろりと生暖かいものが流れた。

彼はそのまま優しく口付けて来た。唇が離れると、雅季は間近で見下ろす男から顔を反らす。

「恥ずかしい……」

「可愛かったですよ……とても」

久賀は雅季の上から半身ずらし、耳元で囁くと火照った乳房に手を当てた。興奮し、ぴんと立ち上がった乳首の誘惑を拒めない。

それを右手の指先でつまんで捻りを加える。爪先で軽く引っ掻く。

「あん」

雅季が恥ずかしげに身を捩った。月光で、頬がさらに赤く染まったのがわかる。そういえば満月か、と久賀はふと思い出した。

右手を雅季の股間に忍ばせた。陰毛が、溢れた蜜を吸ってしっとりと潤っている。容易く彼女の快楽の拠点に辿り着いた。

そこはすっかり柔らかくなって引っ込んでいた。指の腹を使い、その辺り全体を圧迫しながら少しずつ刺激を与えて行く。

黙っていた雅季が眉間に皺を寄せ、喘ぎ始める。乳首とクリトリス、両方の刺激に何か先ほどと違うものを感じ取っている。じわじわと両脚が開いて行った。

「あ、久賀さん……私……おかしい……」

縋り付くように両手を久賀の首に回してきた。自ら両脚をさらに、肩幅くらいまで開く。久賀の指は割れた陰唇の中で小刻みに動き続ける。

膣口から新たな蜜が流れ出て来た。上下の突起は硬くしこり、甘い痺れを雅季に送り込んでいる。濡れた指が張りつめた陰核をするりと撫で上げた。

「あっ!」

雅季がびくっと身体を痙攣させる。久賀は蕾に蜜を塗り付ける行為を、執拗に繰り返した。雅季は何度となく小さく叫び、だんだんその声が切羽詰まっていく。

「あっ、あっ! 駄目っ! 駄目え!」

尖り切ったものを指の腹で左右に殴打した途端、雅季が叫んだ。

久賀はそのまま身体を下にずらし、淡い茂みに顔を埋めた。散々弄ばれたそこは、皮がむけ、尖っていた。それを舌で凌辱し、音を立てて吸い立てた。

「あん、ああん……あうん」

明らかに発情の声音だった。久賀は、顔を埋めている場所から立ち昇る情事の濃厚な香りに陶酔したように、ますます熱心に舐め、同時に膣に指を差し込み、膣壁を優しく擦った。

「いやあーっ、駄目ぇっ!」

雅季の腰が浮く。凄まじい勢いで指が締め付けられる。久賀は顔を上げ、愛芽を転がしながら、雅季の喜悦に歪む顔を見つめた。突然、クリトリスがひくひくっと痙攣した。

「はあ……っ」

四肢を弛緩させた雅季は長く息を吐く。凄まじい絶頂を迎えたのは明らかだった。ふっと綻んだ久賀の口元は蜜で濡れ光っていた。

「イク顔見たら、またしたくなりました」

再び覆い被さる久賀を、雅季はオーガスムスの余韻で焦点の合わない目で見つめ、意外な事を言った。

「自分で、入れたい……」

それを聞いた久賀は、部屋に入って来て初めて動揺を見せた。しかし、すぐに口元に薄い笑みが刻まれる。ただ、それは普段の冷淡なものではなく、ずっと穏やかだった。

「今日はダメです。私に全て委ねて、あなたがするのは、また今度」

自分の下半身に伸ばしかけた雅季の手をやんわりと押さえ、指を絡める。それを机上の顔の横で抑え、久賀は猛りをひくつく襞の間に宛てがうと、再び伸し掛かる。腰を突き出すと、太い幹はぽってりと充血した花びらの中へいとも簡単に吸い込まれて行った。

「やっぱり、きつい……」

久賀は思わず声を上げた。膣が相変わらず幹に絡み、締め付ける。精液が吸い上げられそうな誘い込みに、このままでは雅季より先にイってしまう。

久賀は注意深く内壁を探るようにゆっくりと動く。か細い喘ぎの漏れる、薄く開いた雅季の唇を食みながら、迫る射精感を紛らわせる為に、絡む吐息の狭間で言った。

「自分だけがトラウマに苛まれているなんて思わないでくださいよ。……私にも相当なショックだったんですから。あなたたちが引っ越して行った直後、夜尿症になって、治ったのは小学校高学年に上がってからです。だからと言ってあなたのことを忘れたかというとそうではなく、逆にあの時の光景と想像が入り乱れて悩まされるようになった。ちょうど性教育が始まった頃ですし。自慰をするときは必ずあなたの顔が浮かんだ。いや、あなたの顔しか浮かばなかった。それはその後、彼女が出来てからも変わりませんでしたよ。中に入れる時、そこがあなたの中だと想像した。犯人の男も入れることができなかったあなたの中だと。きっとそこは温かく、狭く、私を締め付けるとね。そう思わないことには興奮出来なかったんです。絶対にイけなかった。もちろん、そんな状態で彼女との関係は長くは続きません。自己嫌悪に陥るんですよ。彼女に対しての後ろめたさもありましたし。つまり、私には、あなたじゃなきゃいけなかったんです。絶対に。だからあなたを必ず探し出そうと決意した。そしてそんな私の前に偶然にもあなたの妹が現れた。私が高二年の時、彼女がその私立高校に入学し、こともあろうか私の所属していた弓道部に入ったんです。それで、話すうちに、あなたが将来刑事になると決めていると聞いた。それで私の進路も決まったんです。幸い、成績はトップでしたし。ただ、警察は嫌いでね。けれど検事なら、こうして出会えるという確信はありました。この日をどれだけ私が待ち望んでいたかなんて、あなたにはわからないでしょうね……」

聞いているのか聞いていないのか、雅季は潤んだ瞳に恍惚を浮かべてただ久賀を見つめている。

いや、久賀を瞳に映しているだけで、何も見ていなかった。

身体の中で膨らんで行く快楽以外の全てを拒み、ただ絶頂を目指して感覚の全てに全神経を集中しているようだ。

「でも、すぐにわからせてあげますよ。心にも、体にも。私から逃れられなくしてあげます」

負け犬の遠吠えのようだ、と久賀は頭の後ろで思った。ずっと焦がれていた女の身体に、すでに溺れているのは自分の方だ。これが欲しかった。雅季さえ手に入れば、もう何もいらない。

身体を突き上げ、揺らせば、男を知ったばかりの粘膜が襞が嬉々として蠕動し、肉幹を扱き、亀頭を撫でた。吸い込みが強く、この瞬間にも射精してしまいそうだ。久賀は歯を食いしばって耐え、速い律動に入った。

「んっ……んっ、きゃっ、ゃん……っや……」

「ずっと……ずっと欲しかった。ここに、あなたの中に、入りたかった……感じたかった」

こくこくと頷く雅季の、小振りな乳房が揺れる。それを激しく縦揺れさせるつもりで久賀はますます大きく腰を振った。亀頭が、雅季の弱点を突く。雅季も悩ましげに目を瞑ったまま腰をぎこちなく揺らし、感じる場所へ久賀を誘おうとしている。

「あぁ、そこっ……変っ! 変になる……っ」

「っく……う、締まる……」

怒涛のような快楽が二人に襲いかかる。

「ああんっ、アアン、あああっ……!」

「で……出るっ…………!」

「落ちるっ……、怖いっ」

長い脚が、久賀の暴れる腰に巻き付く。繋いでいた手の甲に、雅季の細い指が食い込む。体液にまみれたお互いの下半身の滑らかな動きは絶頂へ一直線に向かい、もう止まらない。

雅季が全身をがくがくと震わせた。久賀は、熱くどろどろに溶けても、自分を締め続ける膣の最奥をぐっと突き、どくどくと精を放った。

長い射精を終えても、久賀は荒く呼吸を繰り返しながら雅季を強く抱きしめていた。その腕の中で突然、雅季が堰を切ったように泣き出した。

「泣いて下さい。気が済むまで……」

久賀は、子供のように泣きじゃくる雅季の小さな頭を、何度も何度も撫でた。

広告

投稿者:

takamiyakashio

官能表現含む恋愛小説を創作しています。 王道も好きですが、やや斜めから切り込んだストーリーに日々挑戦中です。 「久保ちはろ」名義でも書くことがあります。