検事 久賀丞已 2

*この物語はフィクションです。登場する人物、組織、名称等実在のものと関係無く、現実に必ずしも忠実ではありません。ご了承ください。

———

また、あの夢だ。

篠塚雅季(しのざき まさき)はベッドの中で目を覚ましたまま、動けないでいた。

嫌な汗がパジャマの背中を湿らせている。乱れた呼吸を落ち着けようと、深呼吸を試みる。

夢の中では自分は常に十歳だ。十九年の間、何度見たかわからない悪夢は、年月が経っても昨日の出来事のように鮮明だ。

口をガムテープで塞がれ、路地裏の壁に押し付けられた少女。

まだ目立たない胸を、骨張った手がブラウスの上から撫で回す。デニムのスカートをまくられる。怖くて固く目を閉じる。男の荒い呼吸が未成熟の太腿にかかる。

下着を脱がされた脚を開かれ、脚の付け根を弄ばれた挙げ句、性器を咥えさせられた。男はすぐに射精し、雅季の口内とスカートを汚した。この直後に、通行人の気配に怯えた男は逃出した……。

雅季はベッドサイドのスマホで時間を確認し、ベッドから出た。早くシャワーを浴びたい。

今日は久賀に、犯人の自白を録取した調書を届けることになっている。

久賀丞已(くが じょうい)。リムレスのメガネにワンレングスの長髪を後ろで一つに束ねた、検事あるまじき容姿の若手だが、敏腕検事。

そして雅季の初めての男。初めて身も心も受け入れた男だ。そのやり方に多少難有り、だったが。

不思議なことに、久賀に半同意で身体を開かれてから、悪夢の途中で男の行為を邪魔する声が入って来るようになった。声がすると、身体に触れていた男は一瞬で姿を消す。夢の中の雅季は、それが誰の声かわからない。目を覚ましても、ほとんど耳に残っていない。

でも、その声の主が久賀だと思いたい自分の気持ちに、雅季はまだ追いつけない。

地下鉄の駅を出ると、イチョウ並木の黄色い帯が目に入る。灰色の空の下、それは余計に明るく見えた。いや、もしかしたら久賀との約束がそう見せているのかもしれない。

――な、わけないでしょ。

雅季は胸中で自嘲し、交通量の多い大通りを渡った。

原則としての始業九時よりも一時間ほど早いが、供述調書を出勤前に持参する旨は数日前にメールをしてあるし、普段から久賀は朝が早いのは知っていた。

案の定、ドアをノックすると「どうぞ」と声が返って来た。

「おはようございま……」

執務室へ入った雅季の挨拶も終わらないうちに、書類から顔を上げた久賀が、すごい勢いで机を回って雅季の身体をホールドした。

「く、久賀さん……?」

長身の久賀に覆い被さるように抱きつかれると、どうしてもその硬い胸に顔を押し付けることになる。フレグランスの残り香が混じった久賀の匂いに襲われ、頭がくらくらし、とたんに脈も速くなる。

「ずっと待ってたんですから、充電させてください」

久賀はそう言って、逃げようと身をよじる雅季を抱く腕にさらに力を込めた。首筋に埋められた顔の無精髭が首の薄い肌をざらりと擦ると、雅季の身体にぞくぞくと戦慄が走る。

「徹夜、ですか……」

「そうです。まあ、珍しいことではありませんけど」

久賀は普段、あまり物事に執着しないようでいて、譲らない一点は決して譲らないことを、知り合って二回目のデート――彼の壊れたマグカップを買う――からプロファイルしていた雅季は抵抗を諦めた。

久賀の息が首をくすぐると、鼓動がさらに高鳴った。

「シャンプー、変えましたね」

「えっ、えっ……! に、匂いかがないでください!」

力を込めて胸を押し返すと、相手は不承不承に身体を離した。

改めて見る久賀は、普段の一分の隙もない姿から一変して”ヨレヨレ”だった。無精髭、やや肌艶の悪い顔色に張りの無いワイシャツ。それでも、雅季の目にはその粗野な男が魅力的に映ってしまう。

「減るものでも無し……意外とケチなんですね。雅季さんの匂い、好きなんですが」

「ケチとか、そう言うことじゃありません! ダメなものはダメです!」

つい声が大きくなったのは、『好き』という言葉に反応し、心臓をばくばくさせる自分を叱責したつもりだった。

久賀は、視線を泳がせる雅季を楽しそうに見下ろしながら

「まあ、充電はさせてもらえたのでお礼に……」

スラックスのポケットから何か取り出した。

「この喫茶店のコーヒーが美味しいんです。それと、チーズケーキが特に」

「へ?」

思わず受け取ったコーヒー券と自分とを交互に見ている雅季の背中に手を添え、久賀はドアのほうへ促した。

「美味しいんですよ」

「そう言う問題では……」

「コーヒー飲んで、チーズケーキを食べたら戻って来てくださいね。それまでにきちんとしておきますから」

そう言って無精髭の顎を撫でた。

「え? 私、調書届けに来ただけですから……」

「大丈夫ですよ。何なら課長に私から連絡しておきましょうか? 半日検事の久賀のところにいると」

「けっこうです!」

雅季は勢い良く踵を返し、退室した。

券の裏の地図を頼りに、大通り沿いではなく脇道を入った場所に喫茶店を見つけた。

昭和時代にタイムスリップしたようなレトロで、コーヒーの香りがしみ込んだ店内では、出勤前の会社員がスマホや新聞を手に朝食をとっていた。

やがて香り高いコーヒーと一緒に運ばれて来たベイクドチーズケーキ――薄黄色のそれは美味しそうだが、特に変哲は無い――に雅季はフォークを入れた。

しゅわっ、という音とともに、フォークが生地に沈んだ。

――しゅわ?

チーズは濃厚なのにレモンの利いた爽やかな口当たり。その絶妙な美味しさについ頬が緩んでしまう。ケーキが半分になったところで、コーヒーに手を伸ばした。

砂糖もミルクも無し。香りを楽しんだあと一口飲んだそれは、まろやかな苦味に酸味、コクがあるのにすっきりした後味だ。雅季はカップをソーサーに戻すと、ほうっと長いため息を吐いた。再びケーキを食べながら、ふと思う。

――久賀さんって、これを食べてる時どんな顔をしているんだろう。

あの、端正な顔を自分のように緩ませながら食べているのだろうか。それとも、カウンター席でマスターと何か話しながら……。

いや、久賀は一人だ。よっぽどで無い限り、オーダーのコーヒーもいつも同じ。そしてチーズケーキ。コーヒーを飲んでから、ケーキだろうか。

それともケーキを食べ終えて、コーヒーだろうか。久賀も『しゅわっ』を毎回聞くのだろうか。

気にし出すと止まらなかった。久賀のことなら、どんなことでも知りたくて仕方が無い。さっき見た久賀の顔が、聞いた声が頭の中で延々と再生される。

そして、初めて彼に捧げたときのこと。久賀の熱い肌、荒い息づかい、濡れた舌。優しく中を探る長い指。

後日、久賀とはデートを重ねても、抱かれたのはその一度きりだった。それでも、鮮明に身体に、頭に久賀が記憶されている。そして、普段はオフにしているスイッチが自然と入ってしまうと、しばらく自動再生されてしまうのだ。

これは普通なのか。それとも自分の何かが壊れてしまったのか。

今までずっと異性を避けていた雅季は、久賀という男が現れてから自分が確実に変わりつつあることに戸惑っていた。でも、その変化は嫌いじゃなかった。

久賀に変えられることが。

雅季が再び執務室に戻ると、久賀はワイシャツ姿で応接コーナーのソファーに座って雅季の調書を読んでいた。ヒゲは剃られている。

「よくまとまっていました。確認したいことがあるので、もう少しお時間いいですか」

テーブルに調書を置き、メガネを外してにこやかに近付いて来た彼に、コートとショルダーバッグを渡して雅季はソファに腰を下ろした。すぐに久賀も隣に座る。

「雅季さん、相当な活躍でしたね。今回の事件はかなり手間がかかりましたから」

「正直、こんなに疲れたのは久々です。一課総動員、他の部署からも応援を頼んでの捜査でしたから。少し落ち着いたら、しばらく休暇を取るつもりです。でも、久賀さんのほうが公判を控えて、これから大変じゃないですか」

「仕事ですから。すぐに起訴状を裁判所に提出して公判を待つ。いつも通りですよ」

「あ、そうだ、久賀さ……」

すかさず久賀に抱き締められ、雅季は息を呑んだ。優しいが、力強い手で顎を掴まれると、抵抗する間もなく唇を重ねられる。

「ん……んん……」

雅季は小さく喉をならしながら久賀を受け入れ、二人は我を忘れたようにお互いの舌を激しく吸い合った。久賀の手が腰から胸に上がってくる。ふくらみが、温もりに包まれた。

「あん……」

「あのときも、少し触っただけで可愛い声を出しましたね」

囁かれ、雅季はコーヒーを飲みながら、そのことを回想していただけに、すぐにカッと身体の奥が火照るのを感じた。

俯きがちになった雅季の唇を自分の唇で掬うように、久賀は再びそれを捉えて吸った。長い間、舌を絡ませ続け、やっと身体を起こすと雅季がうっとりとした顔をしていた。ぽってりとした唇が唾液に濡れ光り、久賀の欲情を刺激する。

性急な手つきでスーツのジャケットを剥がし、ブラウスのボタンを外して胸を大きくくつろげた。

「や、やめて」

雅季は胸を隠そうとした。しかし、久賀に両手首を掴まれ、無理やり拡げさせられた。

「そういえば、さっき何か言いかけましたね」

高鳴る鼓動に胸を弾ませている雅季は、虚をつかれたように久賀の顔を見た。彼はじっと待っている。雅季はキスにぼうっとした頭で、言いたかったことを思い出した。

「あ……、チーズケーキがほんとうに美味しくて……。これを食べる時の久賀さんは、どんな顔をしてるのかな、って思ったんです……」

「すぐに見せて上げますよ。私が美味しいものを食べているときの顔……」

久賀が乳房に顔を押し付けてくる。ブラジャーを押し上げ、まろび出た乳房に頬ずりしたあと、乳首を口に含んだ。チュッチュッとわざと音を立てて吸ってくる。

「ああっ……そんな……あっ!」

乳首への直接的刺激だけでなく、いやらしく吸われているという思いが、雅季の性感に呼びかける。柔肉をゆっくりと揉みしだく手と、乳頭をめり込ませるように捏ねる舌先とに意識を奪われる。硬くしこった蕾への甘噛みと舌先の殴打に翻弄され、無意識に腰がくねってしまう。

「捜査を頑張ったので、ご褒美はたくさんあげないといけませんね」

久賀はソファーの上に雅季の力の抜けた身体をゆっくり押し倒すと、自分は後ろに身を引いて、スカートのホックを外す。

「やぁ……」

雅季の小さな声と同時に、ブラジャーとお揃いのラベンダー色のショーツが露になった。薄い脂肪をのせた、女らしいウェストから伸びる見事な脚線美に、久賀の視線は一瞬釘付けになった。

ついこの間まで男を知らなかったとは思えないほど、雅季の全身は美しく、また淫媚だった。その魅力に誘われるままに久賀はストッキングに手をかけ、ゆっくりと下ろしていった。続いて下着も器用に脱がしてしまう。

「や……見ないでください……」

久賀の視線が、顔から胸、そしてその脚の付け根へと降りていくのを感じ、雅季の身体は火照り出した。

「綺麗です」

久賀が覆い被さるように顔を寄せてくる。そして雅季の鼻先に軽く音を立ててキスをすると、そのまま視線を外すことなく、彼女の足首を掴んで思い切り左右に拡げた。反動で、雅季の背がソファーに沈んだ。剥き出しになった雅季の恥部に屈み込んだ久賀は、躊躇せずに唇を付ける。

「あ……」

ねっとりと舌が秘裂を割る。すぐに動き出したぬめりに襞の合間を舐め上げられ、雅季は顎を跳ね上げた。尖った舌先は、すかさず薄皮の下に潜む蕾を捉える。

「ううん……っ」

その強い刺激にびくびくと総身を震わせながら、雅季は両手で自分の口を塞ぐ。すると久賀は顔を上げた。

「この時間、このフロアには人が少ないんです」

「え……」

「声を聞きたいと言っているんです」

雅季がためらいがちに頷くと、久賀は再び潤った泉に顔を埋める。男のくぐもった息と水音、雅季の控えめな艶やかな喘ぎ声が簡素な執務室に響き渡った。

「あ、あ……んっ」

久賀はすぐに身体を繋げようとはせず、延々と雅季を口で愛し続けた。ブラウスが捲れた、汗の滲んだ肌にソファーの座面が張り付き、切ない疼きがお腹の中から身体の隅々まで拡散してゆく。

――や……もっと。

もっと深い部分を抉られたいという欲求が抑えられなくなり、雅季は自ら大きく脚を広げてしまう。貫いて欲しいと、言ってしまいたい。だが、はしたない女だと久賀に冷笑されそうで言えない。もともとそんな女だと。だから男に路地裏に連れ込まれるのだと。でも、彼にそんなふうに思われたら、一生立ち直れない。

――こんなとき……どうすればいいの。どうしたら伝わるの……。

雅季は泣きそうになり、久賀の方を見た。気配を感じたのか、男が顔を上げた。

「もう、欲しいんですか?」

見透かされていた。雅季の顔が火のついたように熱くなる。羞恥に涙をこらえた瞳で、何度も頷いた。

「でしょうね。ここからもあなたの気持ちが溢れてぐしょぐしょですから」

男は指先で、陰唇の縁をなぞる。それだけで、入り口がひくひくっと戦慄くのを自覚する。

いたたまれなくなり、目をぎゅっとつむった雅季だったが、上体を起こして久賀はその両足をすかさず掴むと、そのまま雅季の耳の横まで倒した。恥ずかしい部分が真上に晒され、思わず目を開ければ、恥丘の向こうから覗き込む久賀の視線と合ってしまう。相手の切れ長の目がすっと細まる。

「でも、だめです。私はまだ、足りないんです。なにしろ二ヶ月ぶりですから」

言い捨てると同時に、久賀は濡れ光る秘裂を唇で塞いだ。その瞬間、息を吸い込んだ雅季の喉がひゅっと鳴った。

久賀は表面を全体的に舐め上げると、舌をぬるりと潜り込ませた。深い位置まで差し入れられた舌が粘膜の間で何度も翻り、弄る。

指が陰核を軽く摘んで、にちにちと扱く。涌き上がる喜悦とあまりの羞恥に、雅季はただ身体を震わせ、浅い呼吸を繰り返すことしか出来ない。

花弁がしゃぶられ、甘噛みされた。白い太腿が引きつる。指で皮が剥かれ、むきだしの突起を舌先でくるくると転がされると、電流が背筋を走り抜けた。

「あっ、そこっ、……あんっ、あっ……あんっ」

ソファーの合皮に爪を立て、雅季はひたすら甘く啼く。それでも久賀は容赦しなかった。媚肉を舐めながら、時おり唇を押し付け、じゅるじゅるっと愛蜜を吸い込む。その振動が粘膜の奥まで響くと、子宮の切ない疼きが増す。彼は真っ赤に膨らんだ実を唇で挟み、吸い立てて、雅季を確実に追いつめていく。

「はあああ……」

強烈な快感が脳内で弾け、唇から迸った艶めいた声が、部屋の空気を震わせた。抑え込まれた身体の中で、逃げ場のない快感が暴れ回るのを雅季は下腹を波打たせながら、喘ぎ声でやりすごすしかない。

「ぃあああんっ!」

下から伸びて来た手に、揺れていた乳房が包まれ、既に尖りきっていた先端を指で捻られる。

乳首と性器を一度に強烈に責められ、敏感な場所が同時にひくついていた。舌が愛液を一掬いするごとに、そこから身体が熱く蕩けていく。

「欲しいと言ってください」

やっと久賀は抱えていた雅季の下半身を解放すると、彼女の開いた脚の間で片膝を付いた。片足は床に下ろして身体を起こし、まるで雅季に見せつけるかのようにゆっくりとベルトを外し始めた。

スラックスとボクサーショーツを下ろすと着衣姿では伺えないが、意外と逞しい下半身の中心から、ワイシャツの裾を分けて男性器が雄々しく反り返っている。

「私が欲しいと言ってください」

声に切なさが聞こえたように思った。懇願するような男の眼差しに、雅季の中に愛しさがこみ上げた。

「ほ……しい、です。久賀さん、が……」

「あなたからそう言われるなんて、たまりませんね」

秘裂に腰を押し付けて来た久賀が、己の先端を襞の間にあてがったと思うと、鉄のように硬い昂りがねじ込まれる。その滑らかな侵入に、雅季は自分がどれだけ濡らしてたかに初めて気付いた。

「ああ……雅季」

久賀は感情をコントロールしようと悩ましげに眉をひそめている。

「ンぁああん……」

熱い媚肉を掻き分けながらじわじわと浸食していく愉悦に、雅季は息を詰め、全身を戦慄かせた。

久賀は腰を両手でがっちり抱え、たっぷり潤んだ隘路に己を呑み込ませていく。ぐっと亀頭が最奥に食い込むと、鮮烈な感覚が脳天まで突き抜けた。

「全部……入りましたよ」

にこっと笑みを見せた久賀は、そのままソファーに手をついて雅季の乳首にちゅくっと吸い付き、腰を繰り出し始めた。

「ぁ……ふっ……」

突かれた衝撃に、吐息が押し出される。久賀が断続的に膣壁を擦り上げ、時折グラインドさせて中を掻き混ぜると、ぐちゅぐちゅと卑猥な水音が雅季の耳を犯した。

――ああ、掻き混ぜられてる……久賀さんに……。

これが欲しかった。久賀が。この熱が。

雅季は快楽のうねりに翻弄させられ、また、久賀と結ばれた感動に胸を熱くしながら、懸命に声を押し殺す。

だが、法を行使し、罪を暴く場所で禁忌を犯していると思うと、なぜか身体の奥から新たな蜜が溢れてしまう。

――いけない……、誰かが来たら……。

「だ、め……っん、ここじゃ……、だめで……すっ……」

「なら……、やめますか?」

小刻みに浅瀬で抽送を繰り返しながら、胸の突起から唇を離した久賀は、雅季の顔を覗き込んだ。普段は冷淡な目が欲望で妖しく光っているのを見ると、心は乱された。

――満たされたい。久賀さんでいっぱいに満たされたい。

彼女は必死で首を横に振り、久賀の背中に腕を回すとワイシャツをぎゅっと握った。

その瞬間、久賀の頬が上気した。

「可愛いことしてくれますね……」

雅季の額にちゅっとキスを落とした直後、久賀は一気に最奥まで埋め尽くした。雅季は、身体が中から押し上げられるような感覚に強烈な目眩を覚え、思わず久賀にしがみついていた。

「大丈夫、離しませんよ……」

絶対に……。久賀は耳元で囁き、雅季の柔らかな身体をしっかり抱くと、激しく腰を打ち付けて来た。

「あんっ……、あっ、あっ……」

容赦なく隅々まで擦られ、連続で穿たれている場所から甘い疼きが止めどなく全身に広がっていく。

いっぱいに埋められ、苦しくて恥ずかしいのに声が止められず、雅季はいつしか腰を揺らして律動を受け止めていた。

「久賀さ、ん……いい……きもち、いいの、」

「わかりますよ……すごく、締まってるから……私もすごく、気持ちいい……雅季の中が熱くて、とろとろで……好きですよ……どうしようもなく」

荒い呼吸混じりの逼迫した声が、雅季の心に揺さぶりをかける。汚れた私なのに、好きと言ってくれる。最初のときも、そうだった。

この人には自分をさらけ出していいのだと改めて思うと、感情が堰を切ったように流れ出す。

「私も……っ、久賀さんが、好き……っ……んン……」

「こういうときは、丞已、と呼ぶんです……」

身体に言い聞かせるつもりか、久賀はくいっくいっと剛直のくびれで奥を引っ掛けるように腰を使う。弱い場所を擦られ、痺れるような愉悦に頭の中が真っ白になっていくなか、雅季は震える唇で恋人の名を口にした。

「丞……已、じょう、い……っ……」

名を呼べば、恥ずかしさとときめきで甘い疼きが一際うねる。雅季が久賀にさらに強くしがみつき、熱に浮かされたように吐息まじりに名を呼び続けると、彼女の中で、久賀の昂りが一層増した。

「それ……、思ったよりやばいです……、もう、狂う……」

久賀は膝立ちになると、雅季の両手首を掴んだ。

「ぁう……」

身体が引き寄せられ、結合がぐっと深まったところで久賀は激しい抽送を始めた。普段の冷静な彼からは想像のつかない獰猛さで、身体ごと怒張を叩き込んでくる。

二の腕に挟まれ、盛り上がった乳房はその衝撃に大きく弾む。服を乱し、清楚な顔を赤く染めながら喘ぎ声を上げる雅季の淫媚な姿に、久賀はますます興奮し、陰部をほとんど密着させたまま、きゅんきゅんと己を誘い込む最奥を攻め抜いた。

「ぁあっ、あっ、じょういっ、……いいっ、あんっ、なかに……中で、だいじょうぶ……」

「ん……」

久賀が嬉しそうに笑んだ気がしたが、涌き上がる快感の渦に霞んだ視界でそれは曖昧で、直後、一番感じるところを傘に抉られると、雅季は凄まじい愉悦にひきずりこまれていった。

「すご……い、ぁあっ、奥にっ……あん……あんっ」

貫かれるごとに、ひたひたと打ち寄せていた官能の波が膨れ上がり、押し寄せて来る。

「くっ、オレも……、っはぁ……はあっ……っああ、っ」

雅季は手首を引き寄せられるままに、目も眩むような快感のなかで背を弓なりに仰け反らせた。

「ぁ………」

身体を突き抜ける強い衝撃に、一瞬息が詰まった。細く開いた唇は戦慄くだけで声は出ない。

びりびりと感電に似た刺激が後から後から肌を走り去っていった。それでも久賀はがむしゃらに腰を叩き付けてくる。

「っぁあ、はぁ……っ、っはぁ……イク、イク………っ!」

先端を最奥に埋め込んだ久賀の総身がブルリと震えた。ほとんど倒れるようにして雅季の身体を抱き締めると、精液を絞り出すように二度三度と腰を打ち付けた。

情事の後、腕に抱いた雅季が落ち着きを取り戻した頃合いに、久賀は服を着て、デスクからウエットティッシュを持って来た。

「ちょっと、冷たいですよ」

久賀が、未だ露な下半身を開かせる素振りを見せると、雅季は慌てて起き上がり「じ、自分でしますから」と、太腿に添えられた手を押さえた。

「遠慮しなくていいですよ」

「遠慮じゃなくって……」

顔を真っ赤に染める雅季の手を払い、固く閉じた膝を割ろうとすると

「汚いですから……」

雅季は声を震わせた。久賀は俯いた相手の顎を指先でなぞった。そして、おずおずと上げた顔を見据えた。

「あなたは汚くありません。私は、あなたの全てが好きなんです。いや、雅季しか好きになれないんです。それに、あなたを汚したのは私です。これからも、あなたを汚すのは私だけです。だから、私を拒否しないでください」

ふっと緩んだ膝を、久賀は優しく割ると情事の残滓を丁寧に清めた。

「そういえば、休暇を取るって言ってましたね。旅行に行く予定などあるんですか」

「あ、別にまだ何も考えてないんですけど。どこかお勧めあります?」

スカートを元通りに直され、そのままブラウスのボタンを留めようと伸びて来た久賀の手を、雅季は「さすがにそれは」と押しとどめた。

「そうですね、泊まるところでしたら『グランデ・フィオレ』なんていいと思いますよ。プール完備、朝食はもちろん、ディナー付き……」

「それって、久賀さんのマンションじゃないですか。マンションの名前はオーナーの『大華グループ』の”大華”をイタリア語にしただけだって、この間話してたの覚えていますよ」

眉をひそめて立ち上がり、ソファーの背に掛かっていたジャケットを羽織った。雅季のコートを広げた久賀が背後に回るので、一瞬何事かと戸惑ったが、頬を火照らせながら、すぐにそれに腕を通す。

「これから公判で忙しくなるし、あなたがうちにいてくれたら癒されるな、と思っただけです。まあ、でもせっかくの休みなのに雅季は私といたらゆっくり休めないかもしれませんね。すみません、今の、忘れてください」

久賀の、打って変わった殊勝な態度に、かえって他人行儀なものを感じて雅季は一瞬寂しさを覚えたが、やはり彼もまだ自分と距離をとりたいのだと思い直して「そうですよ」と頷いた。

正面玄関まで送ってくれた久賀と業務上の挨拶を交わし、別れた。

検察庁に向かうダークスーツに身を包んだ職員達に逆行する雅季は、身を切るような寒風を頬で受け、たちまち現実に戻される。

身体の中にまだ久賀の熱がくすぶっていた。微妙に身体がだるい。まったく、徹夜明けだというのに、どうしてあそこまで激しく動けるのか。二歳若いとこうも違うのか。

――『オレ』って言った……よね。あの、久賀さんが……。

それを思い出すだけで脈が速まり、頬は熱くなる。それでも頭は恐ろしいほどに冴えていた。

――でも、深入りしないほうがいいのかもしれない。

彼のような、所謂”スペックの高い男”が自分のような女にいつまでも執着するとは思えなかった。いつかは飽きる。

その”いつか”が来ることを考えただけで、不安で堪らなくなる。

久賀が、好きだ。久賀のことを考えただけで、胸が切なく痛むほどに。

でも、今なら引き返せる。

雅季は、頭に浮かんだ久賀の上に、休みを取る前に整理しなければならない領収書や書類を重ねて無理やり仕事モードに切り替えると地下鉄の階段を下りた。

Suicaを出すのにコートのポケットを探ったとき、指先が馴染みのない金属片に触れた。足を止めて見たそれは、キーホルダーもプレートも無いシルバーの鍵だった。

――もしかして。

とくん、と心臓が跳ねる。

――そういえば、美味しいものを食べてるときの顔、ちゃんと見てなかった……。

雅季はそれをショルダーバッグの内ポケットに入れると、つい緩んでしまう口元を、さりげなく立てたコートの襟で隠しながら改札を通った。

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投稿者:

takamiyakashio

官能表現含む恋愛小説を創作しています。 王道も好きですが、やや斜めから切り込んだストーリーに日々挑戦中です。 「久保ちはろ」名義でも書くことがあります。