アンダー・プレッシャー(試し読み)第一章/3

「まだ聞こえないんだけど」

 とぷり、とさらに指を深く差し入れた。下腹が緊張し、押さえた襞がひくひくっと戦慄く。ちゅぷ……っくちゅ、くちゅ……茜は音を際立たせるように大胆に泉をかき混ぜた。

――こんなこと、早く終わらせたい。

 そう思い、水音を立てるためだけに指を動かしていたはずなのに、自然とそれは溜まった蜜の中で柔らかな粘膜をも擦り上げていた。大きく撹拌し、前後の抽送を繰り返す。その度に、会議室に響く淫らな音は、茜の情欲を次第に昂らせていった。

「鳥海さんが一番好きな所にまだ触ってないよね? そこも触ってあげないと」

その言葉を待っていたのかもしれない。茜は「指示通り」迷い無く、すでに熟れ、勃()ち上がっていた小さな突起を宥めるように愛撫した。蜜で濡れた指の滑らかな動きは、確実に茜を高みに導く。小さな電流が断続的に背筋を駆け上り、耐えるように内腿の筋肉が強ばった。

っ、ふ…………

 微かな、それでも甘い吐息が洩れた。

「もしかして、オレが欲しくなった?」

「っ……欲しくないです。もう、やめてください……

 そう言いながらも、皮が剥けるほど充血した蕾への愛撫は止まらない。もうすぐ……、もうすぐなのに。水を差した声に恨みを覚えた。

「地下のトイレに来いよ」

「勝手に、外に出られません……

「何でもいいから用事作って来い。今すぐ」

 呆気なく通話は切れた。

 いきなり放り出されたように、そのままの姿勢で呆然としていた茜だが、慌てて身体を起こすと制服を整え、ハンカチで指を拭った。スマホを取り、暗くなった画面をタップすると、自分だけログイン状態のアプリ画面が現れた。ログアウトし、ディスプレイがスリープになってもそれを見ていた。

 このまま命令を無視しようか。

 いや、そんなことをしたらあれが社内にバラまかれる。彼なら眉一つ動かさずにやってのけてしまうだろう。そしてあたしは……会社を辞めざるを得なくなる。それどころか、栄子や同僚になんて思われるだろう。それだけじゃない。会ったことも無い事業所の社員たちにも、それは格好のネタとなり、しばらくは語られるのだ。

 茜は急いで封筒の束を紙袋に突っ込み、机上の物を腕に抱えて自分のデスクに戻ると、挑むような勢いで正面の香川に口早に言った。

「香川さん、私、郵便局に行って来ます。これ、出して来ちゃいますね」

 ラップトップからビックリしたように顔を上げた香川は、茜の切迫した表情にただ目を丸くしながら「よろしくね……」と二度三度頷いた。

 中地下一階の踊り場にあるトイレは地下一階のセキュリティ室の守衛が使うくらいで、ほとんど利用する人はいない。手洗い場と個室が一つだけあり、そのトイレ自体もレバーを押し下げて洗浄する旧式で、ウォシュレットという最低限の機能すらない代物だ。

 それでも頼りない蛍光灯の下では、手洗い場、灰色の床もピンクベージュのタイルの壁も掃除が行き届いて光っていた。

 一歩中に入り、封筒の入った紙袋を正面に持ったまま茜は立ち尽くしていた。

 やがてドアの向こうから、階段を下りる固い靴音が聞こえて来た。両手で掴んだ紙袋の持ち手に力がこもる。

 小さな磨りガラスが埋まった水色のドアが開き、さっきまで電話していた相手が現れた。

――上尾雅哉(かみお まさや)

 薄いブルーのタイトなシャツに紺のネクタイ。スーツのジャケットは着ていず、スラックスはライトブラウンにピンストライプ。彼が入って来、温い空気にグリーンノートの香りが混ざる。

 もともと狭い空間に、背の高い男がいるとそれだけで圧力を感じた。

 茜を一瞥した上尾の、そこにただ壁を見ていると思わせるような無表情さは相変わらずだ。そして、彼はごく自然な様子で後ろ手に鍵を閉める。かちん、と固い音が耳を打ち、茜は思わず小さく肩をすくめた。

「おいで」

 抵抗も怯みもせずに素直に個室に入って行ったのは、電話の時と打って変わってその声が穏やかだったからだ。上尾は茜の手から紙袋を取り、隅に置いた。

「座って」

 茜をトイレの蓋の上に座らせると、当然のような手つきでベルトを外す。茜は思わず視線を床に落した。それでも上目でちらと伺うと、スラックスと下着をずらした彼は、すでに勢い良く反り返ったペニスを握っていた。見せつけるように左右に軽く振る。

「わかるだろ? 咥えろよ。こうなったのは鳥海さんのせいなんだから。落ち着かせてくれよ」

 ――何を言ってるのかこの男は。好きであんなことをしたんじゃない。

「い……、嫌です!」

  茜は顔を上げて相手を睨みつけると、きつく口を結んだ。自分の指導をしていた頃、彼は年下の自分にさえ敬語を使っていたのに。こんな威圧的な物言いをする上尾は知らない。知らない男だ。――怖い。

 男はその顔に張りつめた尖端を突きつけるようにさらに腰を繰り出す。もう一方の手で茜の後頭を引き寄せ、その口元に押し付ける。熱を持つ、その赤黒く張りつめた丸みが唇の端に当たっても、茜は顔を背けて頑に拒否を表した。形の良いつるりとした尖端の 亀裂はすでにねとついていた。

「強情だな」

 冷ややかな声が落ちると同時に、いきなり茜の小さな鼻がつままれた。

!!

 鼻をつまんでいる手を両手で掴むと、上尾はぴしゃりと言った。

「誰がオナニー画像持ってるのか忘れるなよ」

  茜は上尾の手首に手を掛けたまま、再び相手の顔を目だけで睨んだ。その薄い唇は愉悦の予感に弧を描いていた。こんな状況で信じられないが、そんな上尾はやはり端麗な男だった。

 そうしている間にも、息が出来ずに苦しさが募る。思わず口を開けた瞬間、「いい子だ」、そう囁いた上尾が茜の頭を強く押さえつけ、猛り を捻り込んだ。吸い込んだ空気とともに、雄の生々しい匂いが鼻腔を付いた。

「ンン……っ!!」

「噛むなよ……、そう、もっと舌擦り付けて」

 喉の奥で苦味が粘膜に刷り込まれるのに涙しながらも、諦めた茜は上尾のペニスを頬張った。好きか嫌いか別にして、フェラチオの経験がないことは、無い。

 固い幹の根元も指で作った輪で締め付け、小刻みに扱くと、上尾は「っ、は……ぁ」と溜息を漏らした。

 刹那、茜の胸に優越感が湧いた。――可愛い。自分の口の中で戦慄く熱の塊が、可愛い。自分の舌の動きに敏感に反応し、震え、脈打ち、太さを増す。この子に罪は無い。たとえ上尾がとんだ食わせ物であっても、この子は私のなすがままだ。

 溜めた唾液を口内の陰茎にたっぷり舌で絡め、顔を前後に動かしては強く吸引する。じゅぶじゅぶとわざと音を立てながら、茜は指と舌で上尾を嬲る。キスをするようにすぼませた唇に鬼頭を含み、ちゅぷちゅぷと軽く、カリ首のくびれで強く吸う。鈴口に舌を割り込ませるようにして、滲み出る苦い分泌液を舐めとった。

「はっ……っう……

 喉の奥で呻き、上尾の両手は茜の髪を無秩序に弄る。

「どこで……、見てたんですか……?」

 頬をすぼめた口の中で男のものが往復していても、ちらりと頭の隅をよぎった疑問を口にせずにはいられない。一瞬、咥えていた物を解放すると、目元を染めた上尾が潤んだ目で視線を流した。その淫妖な表情に茜の鼓動が跳ねる。じん、と両の乳首が痺れた。

「屋上……

 その艶かしい低い男の声に、速くなる鼓動を誤摩化すように、茜は再びペニスを咥えた。睾丸も優しく揉み、転がしながら口内の粘膜で男を擦り、しゃぶり続けた。ビク、ビクっと膨れ上がった竿が口の中で躍動を繰り返す。ちらりと上目で見ると、瞼を閉じ、切なげに眉を寄せた上尾の俯いた顔があった。呼吸は荒く、早い。茜は男が「近い」のを悟った。根元を扱く手首の動きを、さらに速めた。

……っ、あ………でる…………

 男の言葉と、熱は同時に吐き出された。ぐっと強く頭を押さえ込まれ、茜は喉に打ち寄せた上尾の体液を受け止めきれずに、強く咽せた。それでも、震えながら後から追い打ちをかける精液を口内で受け止めた。

 額に手が置かれ、突き放すように軽く力が入った。咥えていたものがにゅるりと抜けた口元にトイレットペーパーが押し付けられる。

「出しなよ」

 顔を上気させた上尾に溜め息まじりに言われ、茜は俯きながら濡れた唇を拭うと、お仕着せに置いてある風情のサニタリーボックスにそれを捨てた。すると、コンドームの袋が差し出される。彼の口角に意味深な笑みが刻まれていた。

「これ、付けて。口でくわえて……今やってたのと同じ要領だけど。まず指で下ろしながら咥えていくだけ。できる?」

 出来るかはわからなかったが、朦朧としたまま茜は頷き、袋を破いた。コンドームで尖端を包み、口に咥える。一度精を吐き出しても、やや勢いを失っただけで、依然固さを保つペニスに手を添える。ラテックスを伸ばして行く指を追いながら、唇で優しく吸引する。根元まで包んだ時には、それは十分に猛りを取り戻していた。

「なかなか器用だな。じゃ、立って」

 上尾は茜の身体を壁に強く押し付け向かい合うと、唇をぴたりと重ねてキスをする。上尾の舌は、たった今吐き出した自分の物を全て舐めとるかのように、唇から口内のあらゆる所を這い回った。その間にも手は忙しくブラウスを開き、ブラをたくし上げる。両手で乳房を強く捏ねられ、きゅっと乳首を捻られると、身体を貫いた強い刺激に、茜は目をつぶっていても目眩を感じた。思わず上尾の肩に縋る。

「ん……ぁ」

 深くなるキスの合間に、思わず洩れた媚びるような鼻声に茜は一瞬我に返った。――感じてる。無理矢理されて、感じてる……

 男に応えるように絡めていた舌の動きを止める。上尾はそんな茜を無理に追うようなことはせず、今度は唇を繰り返し食んでは啄むようなキスをした。

 上尾がやっと乳房への愛撫とキスを止め、やや身体を引いた。ふと、湿った熱を蓄えた脚の間を微風が通り抜けて行ったかと思うと、すでにスカートが引き上げられていた。片膝の裏を抱え上げられた刹那、ずらされたショーツの際からさっきまで口に入っていたものが侵入して来た。抵抗する間もなく、それはずぶずぶと茜の身体を埋めて行く。口で感じたよりもずっと猛々しい性器の圧迫感に、茜の息が詰まった。

「っふ……っん……

 我慢しようとしても、愉悦に押し上げられた声が喉の奥から洩れてしまう。恥ずかしさから頬を染め、目を伏せて唇を噛む。

「綺麗な色だ」

 胸元に顔を寄せた上尾の息が立ち上がった乳首にかかったと思うと、それは暖かく濡れた舌で転がされた。

「っ……はぁん……

 片手で、緩急を付けて丹念に乳房を揉みしだかれ、ざらついた舌で唾液を乳房に塗り広げられては乳首を吸われる。その度にじんじんと身体の芯が疼く。茜はねだるように身をよじりながら、無意識に男の頭を抱いていた。

「会議室から……咥えたまま、濡らしてたんだ?」

 最初に痛恨の一撃を奥に与えただけで、あとは膣口辺りでリズミカルに上下を繰り返す上尾の動きにもどかしさを感じ、茜は腰を揺らし始めた。捩れたショーツが尻の谷間に深く食い込む。

「入れて欲しい?」

 うなじをねっとりと舐め上げ、耳たぶに歯を立てて上尾は囁く。首の、耳の付け根を強く吸われると、淡い快感に茜の膝から力が抜ける。

 茜は微かに頷いた。

「入れて、って言いな。奥に入れて、って」

 挑発を滲ませて上尾は言い、性器同士を馴染ませるように浅い部分で小刻みに腰を使う。茜を擦るたび、泉から溢れた蜜がペニスを濡らしてちゅぷちゅぷと小さな音が立つ。

 ――気持ちいい……

 茜も上尾の首に腕を回し、情交の香りに混濁したグリーンノートのフレグランスを胸いっぱいに吸い込んだ。思えばセックスをするのは数ヶ月ぶりだった。ここまで追いつめられて、一秒だって我慢など出来ない。

「入れて……奥ま、で……

 ゆっくりと、確実に熱の塊が侵入する。内壁から熱が快楽に形を変えて身体中に広がっていく。浮遊感が体を襲う。腰の感覚があやふやになり、そこから蕩けていくようだ。

「はぁあああ……

 茜の口から長い溜め息が洩れた。久々の感触と熱に、嬉々として吸い付くように屹立を包み込んだ粘膜は、奥まで一杯に埋まった雄の形をはっきりと捕らえる。彼は深々と奥に突き立てたまま 動きを止め、茜の体を強く抱くと首に唇を這わせて上下させた。熱い吐息が首筋と髪の間に篭る。

 ぶるり、と震えたのはどちらだろう。微動だにしないのに、繋がった部分から確実に快楽が響き渡る。これが動いたらどうなってしまうのか。怖い気もしたし、それでも今すぐに確かめたくもあった。

「すごい……。中、ぎちぎちなんだけど。ビクビクしてるし」

 茜は何も言えずに上尾の首元で頭を振った。そんな茜の腰を上尾はさらにぐいっと抱き寄せる。中が切なくきゅんと締まるのを自覚した。

「鳥海さん、実はエロいんだね。すごく」

 さっきのフェラチオのお返しとでも言うように、上尾は耳たぶをそっと食み、しゃぶる。後頭の髪を柔らかく握り、上を向かせて何度も唇をついばんだ。上唇を軽く噛み、舌を差し入れて優しく絡みつかせる。頭を支えている大きな手が、髪の中で泳いでうなじをそっと撫で上げる。さっきまで辱められ、乱暴に煽られた興奮が、じんわりと蕩け、甘く身体中に染み込んでいく。

 さっきまでの、上尾の茜に対する仕打ちは明らかに陵辱のはずなのに、今ではまるで恋人に与えられるような優しい愛撫だ。うなじを撫で続ける手つきにうっとりとしながら、茜も相手の蠢く舌を追い、吸っていた。そして上尾はそっと離した唇の上で甘く囁く。

「キスだけでも、締まってる。わかる?」

 雄を咥え込み、さらに搾り取ろうときゅんきゅんと疼く内部の変化に気づかないわけが無い。しかし、茜はこんなにも淫らに相手を求める自分に戸惑っていた。上尾にしがみつく腕に力を入れ、胸に額を押し付けた。

「動いていいよ。鳥海さんが気持いいように」

 そういわれて試したものの、片脚で立ったまま、上尾に体を支えられた体勢では思うように動けなかった。擦り上げるように何度か腰を上下させるが、茜の求める刺激には追いつかない。その不器用な動きに苛立ちさえ覚える。

 ――もっと、もっと欲しいのに。

「うまくいかないみたいだな。オレがしてもいい?」

 間近で茜の瞳を覗き込んだ上尾の眼差しは切なげに見えた。それは視界が欲望でけぶっていたからだろうか? 問われた茜はこくこくと首を縦に振った。

「素直だな」

 上尾は満足げに含み笑いをすると、より高く片膝を抱え上げた。そして密着していた腰を引き、間髪を入れずに激しく茜を貫いた。

「あんっ……っんんぅ!」

 身体が突き上げられた瞬間、艶めいた声が溢れた。

「声もエロい……

 上尾が耳もとで囁く声は掠れていた。

「そん、な……っ」

 否定の言葉は、上尾の叩き込んだ強い一打に打ち砕かれた。熱く漲った上尾自身が容赦なく茜を責め立てる。擦れ合う、濡れた性器の立てる粘りのある音に聴覚も犯され、羞恥と、今まで味わったことの無い強い快感に茜はあっという間に追いつめられていく。既に脚には身体を支えるほどの力はなく、穿たれるまま上尾の背に必死にしがみついた。シャツの下の筋肉の動きを、茜の掌が追う。

「っ…………っあ、あ……あ、あ……!」

 高くなる嬌声を塞ぐためか、上尾は茜の唇をキスで塞いだ。彼が暴れる茜の舌を嬌声ごと吸うと、閉じた瞼の裏で光がスパークした。

 ぐしょぐしょに濡れたショーツが張り付いて、気持が悪い。パンストの替えはロッカーにあるが、さすがに下着の替えは無い。生理用のナプキンがあった。あれを使おう。

 茜がスカートを整え終わるのを見下ろしていた上尾は、乱れた髪を軽く手櫛で後ろに流してから、ドアを開けて言った。

「けっこう、時間食ったな。郵便局は混んでた、って言えばいいよ」

 指図されなくても、そうするつもりだった。

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投稿者:

takamiyakashio

官能表現含む恋愛小説を創作しています。 王道も好きですが、やや斜めから切り込んだストーリーに日々挑戦中です。 「久保ちはろ」名義でも書くことがあります。